皆さんは地球環境の劣化が進んでいることをご存じでしょうか。地球温暖化は、大気中の二酸化炭素が増加し、地球から放出されるはずの熱が逃げられなくなって、地球の気温が上昇するという現象です。この結果、南極大陸の氷が溶けだして陸地が水没したり、台風の発生、地球の砂漠化が進むなど、地球環境が大きく変わってしまうのではと大変心配されています。何とかして人間が大気中に放出する二酸化炭素の量を減らそうと、国際会議が開かれていることはご存じのとおりです。
 ところで、きちんと管理された森林から得られる木材資源を使えば、大気中の二酸化炭素の吸収・固定を進めるとともに、化石資源の消費による二酸化炭素の放出を減少させて、地球温暖化を防ぐことになることを皆さんは知っていますか。地球温暖化を防ぎ、地球環境にやさしい木材の特性、木材利用のしくみを見てみましょう。
 
 樹木は、大気中から吸収した二酸化炭素と根から吸い上げた水を原料として、太陽エネルギーと葉緑素の働きで糖をつくり、酸素を放出します。これが光合成です(図1)。糖はさまざまな化学変化を起こし、樹木を構成する主な成分(炭素化合物)に変化し、細胞壁となって樹木の中にため込まれていきます。その結果、樹木は年々成長し、炭素を体の中に貯蔵し続けるのです。木材の重量の約2/1が炭素です。
 これを日本の普通の森林で試算すると1ヘクタールで1年間に15〜30トンの炭酸ガスを吸収し12〜23トンの酸素を放出している。酸素は大気中にたくさん含まれているので、酸素が不足する心配はないが、問題は炭酸ガスである。
 炭酸ガスは、大気中に0.03%しか含まれていないが、地球の温度調節に大切な役割を果たしている。炭酸ガス濃度が上昇すると地球温度も上昇し、赤道を中心に急速な砂漠化が心配されるようにもなっている。
 人工林では、年間の炭素固定量が大きくなるころ、森林の一部を伐採して木材として利用し、その跡地に植林を行えば、森林は全体としていつも若々しく成長し、炭素固定量も高いレベルを保つことができます。この場合、木材の伐採量は森林の成長量を超えないようにコントロールします。こうすれば森林の成長量分だけ利用することになり、木を伐て利用しても森林を破壊することにはなりません。丁度銀行に預けたお金が利息を生み出し、その利息分だけ使うのと同じです。
 人工林は天然林よりも成長が早く、下草刈り、除伐、間伐、枝打ちなどを繰り返して適正に管理、育成されます。今後、利用の対象になる木材は、よく管理された人工林から伐り出されるものとなるでしょう。このようによく管理され、しかも適切に伐採される森林は、全体として若さを保ち、元気いっぱいに成長し続け、公益的機能(水をつくり、国土を守り、美しい風景をつくり、多様な生物の住みかとなる機能)も十分発揮する森林になります。

光合成による糖の生成

 木の大きな体にはたくさんの炭素を蓄えることができます。木が製材品になり、それが住宅に形を変えても、木材の中の炭素は蓄えられたままです。いわば木材は炭素の缶詰なのです、それでは木材はどのくらい炭素量を蓄えているでしょうか。たとえば、10.5cm角で長さ3mの柱が蓄えている炭素量は約7.5kg。延床面積136uの木造住宅では木材を約24立方メートル使用していますから、蓄えている炭素量は約6トンにも及びます。一方、鉄筋コンクリート住宅(RC造のマンション)や鉄骨プレハブ住宅では、木材使用量が少なくなるので約1.5トンと木造住宅の1/4になってしまいます。
  我が国の全住宅に使われている木材が蓄えている炭素の総量は1.41億トンで、そのうち木造住宅が蓄えている量は1.29億トンに及びます。全住宅が蓄えている炭素の総量は、日本のすべての森林が蓄えている炭素総量の約18%に相当すると試算されています。街の中に木造住宅を中心とする第2の森林があるといっても良いでしょう。(資料:大熊 幹章、木材工業53-2(1998))。

住宅の中に蓄えられている炭素量
(床面積136uの住宅1棟)

炭素を大気中から取り込む森林、そこから木材、木造住宅への炭素の流れ

 ここまでに森林の二酸化炭素の吸収・固定・貯蔵、そして木材、木造住宅における炭素貯蔵量についてお話ししてきました。今度は炭素の放出について考えます。
 ものをつくるには電力や熱源など必ずエネルギーが必要です。電気は発電所で普通、天然ガスや石炭を燃やしてタービンを回し、発電します。また、工場で熱源を得るにも重油などを燃やします。重油や石炭などを化石資源と呼びますが、現在ではエネルギーの大部分がこの化石資源を燃やすことによって確保されています。化石資源を燃やせば当然二酸化炭素が放出されます。このようおにエネルギーを使うことは二酸化炭素の放出につながります。
 今度は住宅の構造別に使用されている構成材料の量を調べ、材料ごとの炭素放出の値を使って住宅1棟(床面積136平方メートル)を建設する時に必要な材料の製造時に放出される炭素量を計算しました。木造住宅は最も炭素放出量が少なく、これに対して鉄骨プレハブ造、RC造住宅ではそれぞれ3倍、4倍の炭素を放出します。木造住宅の建設がいかに地球環境にやさしいかがわかりますね。

各種材料性造における消費エネルギーと炭素放出量
出典:[木質系指示等地球環境影響調査報告書]  (財)日本木材総合情報センター (1994)

 それでは、木材の育成とその利用を炭素の流れ、すなわち循環と言う観点から見てみましょう。林地に植林された樹木は、大気中から取り込んだ二酸化炭素をその生命力で体内に炭素として貯蔵しますが、年数の経過とともにその貯蔵量を増加させていきます。樹木の成長です。成長した樹木は伐採され、丸太は工場に運ばれて製材品になり、住宅の部材として用いられます。このとき、成長時に樹木に蓄えられた炭素は製材品として住宅の中にそのままストックされることは当然です。ある年数が経った後この住宅は解体されますが、解体材の一部は再利用(リユース)されたり、パーティクルボードなどのボード類にリサイクルされます。このボードを用いて家具が組み立てられ、使用後、廃棄されます。
 生物資源である木材の育成とその利用は、この図に示すようにくり返し続けることのできる理想的な循環系をつくっているのです。鉄やプラスチックではこのサイクルは描けません。廃棄材と資源がつながらない図になってしまいます。
 しかも、木材は製造・加工時にエネルギー消費が低く、炭素放出量が他の材料に比べて格段に少ない、地球環境に大変やさしい材料です。
 森林を増やし、これを正しく管理して、この森林から適切に取り出された木材を上手に利用していく。そして伐ったら植えるという大原則を必ず守る。このシステムを21世紀の私たちの生活を支えていく基盤とすることを、今、真剣に考える時ではないでしょうか。

木材の育成とその利用のリサイクル