木の良さのなかで、第1番目にあげられますことは 『 木は軽くて丈夫 である 』 ということです。このことは、木の大部分が建築用材や家具材等に使用されるので、重視される因子の1つです。木の強さといっても、圧縮、引っ張り、曲げ、せん断というように加える力の方向や位置により、 また、節、年輪密度、樹種等の違いによっても大きく差が出てきます。
  木は軽くて丈夫であるため、地震に強く、基礎工事費も安くてすむという利点があります。また、材料の重量当たりの強度を比べてみると、木はコンクリートの9.5倍の強さをもっていることがわかります。

     
  木の大部分は水と空気で、木材そのものはほんのわずかしかありません。特に、夏場のスギ・ヒノキは水分が重量の半分くらい含まれています。(気乾状態にすると木材含水率で約15%比重は0.4位になります。)また、木の構成体である細胞を拡大鏡で見ますと図の如くパイプ状の仮導管が97%を占め、中空となっています。この細胞を押しつぶすだけの圧力をかけて作る圧縮木材は空隙がなくなって、比重は約1.3と重くなり、3分の2以上は空気であるともいえます。このように木は中空のパイプが寄せ集ってできている上に、秋材部は細胞が小さくなり、膜も厚くなって年輪となります。この年輪が又パイプの働きをすることになります。パイプは中空になっていますので、軽い割合に丈夫であることは、鉄棒や合成梁などに利用されているとおりです。
  特にスギやヒノキの心持ち材は樹心部が未成熟材であるため、成熟材に比較して強度は30%位低下します。しかし、心持ち材はパイプに相当する外側部分に成熟材があり、節は貫通していない等により、心去り材に比べて衝撃には強いのが事実です。

   
  木には弾力性があることは鯉のぼりのさおを見ても容易に理解出来ます。また、木の表面は衝撃を柔らげる大切な働きがあります。床板や腰板は人が運動したり、転倒したときに大きな衝撃を受けて怪我をするのを防ぐという目的もあります。
  人間は2本足で歩きます。動物の世界では例外的な存在なのです。2本足だと、歩いたり走ったりするとき 、足の裏や膝、腰などに衝撃を受けやすいのです。コンクリートや大理石などの固い材料の上では衝撃は 頭まで響いてしまいます。
  一方、海岸の砂地の上ではどうでしょう。衝撃はないけれど足が砂にめり込んでしまうので、すぐに疲れてまいます。どうやら歩行のための床には、適度の衝撃吸収性が必要なようです。
  実は木はパイプ状の細胞の集合体です。物体が衝突するとまず表面の細胞がつぶれ、さらに次の層の細がつぶれるというように順次細胞がつぶれていくので、衝突した物体が跳ね返るまでに時間がかかり、そのに衝撃吸収してしまうのです。だから、木は足にやさしいのです。
  さらに、根太等で床組みした場合には、床材のたわみによっても衝撃を吸収しますから、より一層効果的で。厳しい運動をする体育館の床がほとんど木製になっているのは、このためです。
木のなんでも相談シリーズ2〜木の性質と使い方より〜
企画:(財)日本木材総合情報センター
 ガラス玉を床に落として割れる高さ   
                      出典:[木づくりの常識非常識]上村武著・学芸出版社

   
  木は熱を伝えにくいという性質を利用して、おひつ、風呂桶、すし屋の高下駄、氷とおがくずなどの他、住宅ではスギ皮茸き、下見板、雨戸、床板、天井板、障子戸、ふすまによって居住間をすっぽり木でつつみ熱の浸入と放出を防いで温度差をなくする工夫がなされてきました。
  木の主成分であるセルローズやリグニンは熱の不良導体で あり、さらに木の内部には空気がたくさん含まれているので熱の伝わりが非常に遅い。
材  料
熱伝導率の比較
アルミニウム
1,480
450
コンクリート
6
ガ ラ ス
5
木材(マツ)
1
空  気
0.2
  熱伝導率(一定面積から一定時間内に伝わる熱量)は、木を1とすると鉄は450倍、アルミニウムは1,480倍で熱しやすく冷めやすいことがよくわかります。
  また、木の熱に対する性質に比熱(1gの物質を温めて1℃温度を上げるに必要な熱量)があります。木の比熱はコンクリートの1.5倍、鉄の3倍、空気の1.3倍と大きいため保温性は優れています。このように木には
  他の無機質材料にはない断熱性や保温性の優れた性質があります。
  コンクリートの床上と机の上では3℃位の温度差があり、さらに時間の経過と共に足裏からどんどん熱が奪われるため、底冷えすることになります。窮余の策として机の下に厚板を敷いて我慢する他ありません。

  今、室内にあるアルミサッシ、ガラス、木の柱に手を触れたとします。すべて同じ温度なのにアルミニウムが最も冷たく、木が最も暖かく感じます。なぜこんなに、材料によって接触温冷感が違うのでしょう。
  それは熱の伝わりやすさが物質の種類によって大きく異なるからです。アルミニウムは木よりも熱を伝えやすいのです。つまり、熱は常に温度の高いほうから低いほうに流れますから、アルミニウムに触ると指の表面温度が急激に下がり、冷たく感じるのです。木に触れても、熱を伝えにくいため表面温度があまり下が らないから、冷たく感じないのです。
 床材料の違いによる足の冷え方   出典:[木材工業Vol.22(1996)]

   
  木材に含まれる水分は細胞内腔や細胞間げきに含まれる自由水と細胞壁(膜)自信に含まれる結合水とがあります。製材を乾燥させると、まず自由水が放出され、(このときは木材の収縮はおこらない)次いで結合水が徐々に出て行き(このときから木材の収縮がはじまる)さらに木材を長期間大気中に放置して置くと木材の含水率(木材の含水率とは木材に含まれている水分重量を絶乾重量で割るため、100%以上になることがある)15%前後で安定します。この状態を気乾含水率といっており、気乾状態の木材は梅雨期から夏においては空気中の水分を吸収して膨張し、冬の乾燥期においては逆に放湿して収縮するという優れた調湿機能を持っています。
  このように木は無機質材料とは異なって『常に呼吸をしている』ということから『木は生きている』という表現 が使われる要因でもあります。

  木は木綿の肌着と同様、吸湿放湿性があり、空気中の湿度が増すと湿気を吸収し、湿度が下がると湿気 を放出するので、室内の湿度を安定させます。
  例えば、10cm角、長さ3mのヒノキの柱は、気温25℃のとき湿度が4%から80%に変化すると、1本で1.2リッ トルもの湿気を吸収してくれるのです。柱だけでなく、床、壁、天井が木造ならば調湿機能はもっと向上するはずです。
 住宅内装別の湿度変化   出典:[木材研究資料]則本京、山田正 No.11(1997)

   
  木はガラスやコンクリート、アルミサッシ等に比べ結露しにくいことは良く知られており、その優れた特性は建築部材や、台所用品に生かされています。木は空気をたくさん含み、熱を伝えにくい性質があり、しかも水分を吸収したり放出する調湿機能を持っているため結露しにくい。また、木の表面は一見して平滑に見えますが、拡大してみますと多孔質であることが分り、無機質のガラス等に比べて結露しにくいことがうなずけます。
  結露現象をもう少し詳しく述べますと次のようなことになります。空気は含みうる水蒸気の量は、同じ気圧 のもとでは温度によってその最大限が決まっていて、それ以上の水蒸気を含むことができません。そして温度が高いほど空気中に含みうる水蒸気の量は多くなります。いま、水蒸気を多く含んだ暖められた空気が、冷たいガラスやコンクリート等に触れると局所的に気温が下がり、その空気の相対的湿度は上がり、それが 露点にまで達すると水蒸気は水滴となってガラスやコンクリートの壁面に付着し、ついには流れ出します。
  梅雨期は比較的気温が低いので、少ない水蒸気量で過飽和の状態になりやすく、冷えやすいコンクリートやタイル等には簡単に結露し、水を流したようになります。また、冬期間に暖房をかけると室内と外気との温度差が大きくなり、アルミサッシやコンクリートのように放熱の多いものは室内の壁面に結露が生じ、適度の水分と室温によってカビがはえやすくなります。高層住宅や非木質系住宅に比べ、軸組構法による木造住宅は適度な通気性もあり、サッシの結露対策(木製サッシ、木製防火雨戸、障子戸等)を施せば、快適ない居住性と健康が保てるでしょう。

   
  森の中に入ると独特な香気を感じ、気分が爽快になります。マツ林はマツの、スギ林はスギの、広葉樹林 は広葉樹の香りがします。以前から林業者がよく言っていた 「 山へ行けば風邪など治ってしまう 」 というこ とは、最近盛んになった森林浴にあてはまると思います。
  ドイツでは100年も前から森林浴の習慣があり、植物から発散されるテルペン系の揮発性物質をロシア語でフイトン(植物)チッド(殺す)と呼んでおります。
  森林浴は樹木の葉から発散されるテルペン類が殺菌、殺虫効力の他に、人間の皮膚や粘膜を刺激し、気管支の機能を促し、更に樹木の香りが自律神経系のバランスを保つ上で有効なことも確かめられ、心身の健康増進に役立っています。このテルペン類は、針葉樹が広葉樹の約2倍、夏は冬の5〜10倍ほど多く発散されます。スギ林1ha当たり、1昼夜に4kgのテルペン類が放出されていることも実証されています。

  このテルペン類は落葉の中にも多く含まれ、秋には落葉からも相当量が発散されます。樹木は伐採されて用材になっても多くの香りを発散させます。新築の木造住宅の香り(最近は残念ながら新建材のホルマリンの臭いが強い)、木製家具、木のがん具、酒樽、風呂桶等の木の香りは、郷愁からくる安らぎだけでなく、スギには大脳を刺激して脳の働きを活発にしたり、ヒバの家には蚊がこないなど、木の香りと人間の健康とは深いかかわりがあり、木は心身の安全を守ってくれます。
植物の抗菌・殺菌作用
植 物 名
作 用 の 内 容
ユーカリ
ブドウ状球菌・流感ビールス・創傷治癒・呼吸器系の治療・防虫(蚊など)
カ   シ
呼吸器系の治療
ヒ   バ
防虫(蚊など)
イチョウ
高血圧治療
ポ プ ラ
痔治療・流感ビールス
マツ・スギ
ジフテリア菌
ツ ツ ジ
黄色ブドウ状菌
モ   ミ
黄色ブドウ状菌
サ   サ
防腐効果
シラカバ
カ   シ
オレンジ
カビ・バクテリアの減菌作用

  
  木は直接打撃を加えて音楽を発する打楽器、間接的に弦の振動を木に共鳴させる弦楽器は、その樹種や木目、音板等の大きさによって音色は変わります。卓上木琴や立奏木琴(シロフォン)は素朴で美しい音色を発し、音階も自由に作り出せる木質打楽器です。
  琴やギター等の弦楽器は弦の振動音を木に共鳴させて音量を増大させるものです。また、木の共鳴をうまく建築に取り入れたものに日光の鳴龍、千世院のうぐいす張り、剣道場の床張り等があります。
  木はコンクリートに比較して吸音率は4〜10倍ほどあり、音を和らげる性質があります。コンクリート等無機質の壁面や天井、床張りの室では音が反射して残響となり、耳障りな騒音となります。音楽室、スピーカーボックスなど音響効果を重視する場合や、住宅においてもできるだけ木を沢山白木のまま使用すると音を和らげてくれる。

   
  色は、光が目を刺激することによって生ずる視覚感で、普通は物体の表面から反射した物体色と、物体を通過した通過色、太陽や伝統のような発光体の出す色原色に区別しています。また、色を大別すると、色合いのない無彩色(黒・灰・白)と有彩色(赤・青・黄)に区別されます。
  光は可視光線(長波長の赤から短波長の紫まで)のほかに目に見えない赤外線や紫外線等が含まれています。人の色に対する感情はまちまちであり、個人別、男女別、年齢別、社会環境別等により変化します。
  木の色は樹種や生育環境等により異なり、無彩色の白(カエデ)灰(神代スギ)黒(コクタン)、有彩色の赤(サクラ)褐(ケヤキ)黄褐(ヒノキ)黄(カヤ)淡紅(スギ)等があり、細胞膜壁や空隙内に含まれる樹脂、タンニン、リグニン、色素、その他の化学成分によって、その木独自の色彩をはなちます。また、1本の木でも辺材と心材の色は異なり、辺材部は細胞が生きており、養水分の通導が活発で、樹脂や色素の充てん物が少なく心材より淡い色をしています。木は多くの色が混ぜ合わさった自然食であり、人工的には作り出せない暖かさを感じさせる色のものが多い。また平滑に仕上げられた木の表面に光をあてると、ほどよい光沢が見られますが、これは光の拡散反射(色が見える)と鏡面反射(きらきら光る)が適度に現れるからです。人の目が疲れない、心地よい光の反射率は50〜60%とされていますが、磨いたアルミの反射率は90〜95%で、目がちかちかして人は興奮したり、落ち着きをなくします。ヒノキは60%の反射率で快適といえます。白色は光のあらゆる波長が一様に反射するので白く見え、あてた光の80〜90%を反射するので、目がちかちかして落ち着きません。
  また、太陽光線には目に見えない透過性の大きい紫外線が含まれており、目に直接入ると網膜を傷つけ結膜炎をおこしやすいのです。木は室内の紫外線を大部吸収する作用をもち、人の目を保護してくれます。非木質化やOA化の進むなかで、せめて机や内装に本物の木を使いたいものです。

  近年、日本人の視力低下は世界一ともいわれています。眼精疲労を避けるためにも、これからは目にやさしい材料を使いたいものです。

   
  木目は木を構成している組織(細胞)の大きさや配列によって異なり、また、樹種や樹齢のほかに個体差により材面に現れる模様は様々です。木目のことを専門用語で目理といっています。木目は年輪の境界線が鮮明なものほど良く現れます。スギはヒノキに比べて木目がはっきりしており、スギの木目を生かした用途は沢山あります。一般にスギ、ヒノキ、マツ等の針葉樹は正常に成長すると、木口面の木目は同心円形、半径方向は柾目、接線方向は板目(タケノコモク)が現れます。木が異常成長したり、樹齢が高くなると波状年輪や局部的なこぶ、ねじれ等により特殊な模様が生じ、杢(モク)として貴重価値があります。例えば屋久スギのうずら杢、ケヤキ、クスノキの玉杢、カエデ、マツの鳥眼杢、ミズナラの柾目面の虎斑、トチ、カエデのリボン杢等千差万別であり、人工的には造りだせない模様です。
  木目の美しさは、その木独特の模様の他に色彩や光沢といった木肌のよさが加わって一層優美となり、飽きを感じさせないばかりか、長い年月の風雪に耐えた自然物と同居しているという潤いと安らぎを感じさせます。
  木は自然の象徴です。

   
  奈良法隆寺の大修理や薬師寺の金堂・西塔の再建が半世紀にもわたって行われ、昭和の偉業をなしとげた宮大工の棟梁西岡常一氏がいみじくも、 “ 木は二度生きる ” といわれたが、木は樹木として生きているときは人の生活環境を守ってくれたり、安らぎを与えてくれる大切な働きをし、伐採されて用材となっても人の生活とともに何百年も行き続けるということかと思われます。
  木の耐用年数は気の遠くなるような長年月であることを先人は知り、身近に得られる樹種で仏像や木造建築物等を建造し、独特の 『 木の文化 』 を築きあげてきました。日本最古の木造建築物としては、法隆寺の五重の塔は飛鳥時代にヒノキで、桜井市の山寺跡から出土した飛鳥時代の回廊はクスノキで、本県最古の木造は、足利市のばん阿寺の本堂と鐘楼が鎌倉初期にケヤキで建てられています。
  このように、木はその地方で長年風雪に耐えて自然の摂理に合うようにつくられた結晶であり、鉄やコンクリートのように人工的には作り出せない優れた材料です。
  木の表面は変色しやすいのが酸や塩分には強く、特に心材部は樹脂やリグニン、色素等が多く含まれていて、水分の多いところでも十分に耐久性はあります。

   
  木は180℃に加熱すると水分の分解が始まり、木ガスを発生しますので火炎を近づけますと引火します。そのときの温度は250〜290℃になり、更に燃焼が続いて350〜450℃になると木は自ら燃え出して自然着火の状態になります。このように木は比較的低い温度で燃えだすところから、木は燃え易いとか火に弱いというように誤解されてきました。
  ところが木は熱を伝えにくい性質があるのと、燃焼すると表面に炭化層ができて酸素の供給が困難になるため燃えにくくなります、木の炭化速度は樹種によっても異なりますが、1分間に0.5〜0.8mm位とされていますので、ある程度の厚さがあれば火災の際でも強度的、防火的にも十分に耐えられることが実証されています。
  昭和61年1月28日に日本住宅・木材技術センターが在来工法木材住宅の実大燃焼実験を行いましたが、大壁、真壁共簡易耐火プレハブとほぼ同じくらいの防火性が認められました。特に真壁工法の2階床板(厚さ40mm)と木製サッシの威力が確認されたところです。

  そこで木造の場合、不燃材料との組み合わせによる防火性能の向上、木の体質改善による難燃化などの研究が精力的に進められ、その成果が実用化されています。
  今では、骨組みが木造だから燃えやすく危険とういうのは、事実に反することがわかってきました。
  断面の大きな柱や梁は表層復の炭化層が断熱層の役割を果たし、燃焼の振興を妨げます。また、火によって温度が上昇すると、軽量鉄骨は柔らかくなてしまいますが、木は硬いままです。したがって、太い木の柱や梁でできている構造体は火事のとき鉄骨造りより丈夫なのです。このため避難や消火活動の視点からは、鉄骨造りよりも安全性が高くなります。
  また、化学繊維やプラスチックと違って、燃焼時に有毒ガスを発生することもありません。このことは廃棄時の大気汚染防止の観点からも重要です。